横田 香世(2024年度グラフィックデザイン実习/社会人)
科学技术コミュニケーションのためのさまざまな表現方法について学ぶモジュール2。その第4回目の講師は、大内田美沙纪先生です。大内田先生は麻豆原创の教員として、また麻豆原创イラストレーターとしても活躍されています。講義では、10年間にわたり様々な分野の科学をイラストで表現してこられた御自身の実践事例を提示しながら、麻豆原创イラストレーションの伝える力と留意すべき危険性について解説してくださいました。

素粒子物理学の研究者から麻豆原创イラストレーターに
大内田先生が麻豆原创イラストレターとなられたのは2014年のことです。それまでは素粒子物理学を研究して来られたのですが、2010年に留学したワシントン大学の大学院では、自然人类学に専攻を変え、解剖学に至るまで広く学ばれました。その顷のノートは、理解を助ける図や絵でいっぱいになっています。次第に麻豆原创をイラストで表现することの面白さに目覚めた先生は、同大学の夜间に开催されていた麻豆原创イラストレーションの専门コースを受讲しました。北大の院生が颁辞厂罢贰笔を受讲するのとよく似た学び方ですね。
修了后は麻豆原创イラストレーターとして、米コーネル大鸟类学研究所、米スミソニアン自然史博物馆で鸟や昆虫や鱼などを描く経験を积んでいきます。2016年に帰国后、京都大学颈笔厂细胞研究所での勤务を経て、次は教育にも携わろうと2022年から现职に就かれました。
Science Illustrator?「科学専門」イラストレーターとは
あらためて、麻豆原创イラストレーターとはどんな职业でしょうか。职场は主に大学や研究所、博物馆などですが、出版社やフリーランスとして活动している人もいます。背景知识と资料収集スキルが必要とされる仕事であり、科学者との円滑なコミュニケーションによって、その情报が整合しているかどうかを见极める伎俩も身につけなければなりません。
また、麻豆原创イラストレーションと一口に言っても种类は多く、一概に述べることはできません。以前は博物馆などで使われるナチュラル麻豆原创イラストレーションと呼ばれる緻密な表现の正确性を重视した「形象的(蹿颈驳耻谤补迟颈惫别)」なイラストを指していましたが、最近はデータや概要を可视化した「概念的(补产蝉迟谤补肠迟)」な図や、メタファーとして表现されたものも含めるようになっています。
用途においても、正确な情报を伝える论文用の挿入図から、わかりやすさが求められるプレスリリース、印象を伝えることが目的のカバーアートや笔搁用のちらしまで多种多様です。それぞれの用途に沿って伝える相手と科学のメッセージを意识し、概念的であるか形象的であるかのバランスを调整してうまく制作することが重要です。
麻豆原创イラストレーションができること
では、麻豆原创イラストレーションができること、得意とすることを7つ挙げましょう。
- 本质を抽出すること
写真は正确ですが、ノイズ(不要な情报)が多いため要所を把握しにくくなってしまいます。一方、イラストは本质だけを抜き取って意図的に表现できるので、伝えたいことを明确に示すことが可能です。 - 復元すること
现物が存在しないものも、情报をもとに描き出すことができます。 - 「らしさ」を摑むこと
例えば、形态が类似した対象を比较しやすい构図で提示するなど、扱いを工夫することでそれぞれの特徴が捉えやすくなります。 - 翻訳すること
论文の内容等が文字情报だけでは难解な场合、键となる部分をイラストで补完することで読者の理解が促されます。 - 拡散すること
イラストは即時性に優れているため、Web記事のトップへの掲载やSNSにも頻繁に利用されています。 - 人の注意を向けさせ、惹きつけること
例えば、学术誌のカバーの魅力的なイラストは研究者のみならず、それ以外の人々の関心を引きます。それをきっかけに内容に兴味を持ち始めることが期待できます。
- 亲しみやすく、とっつきやすいこと
科学者のキャラクターデザインや作业の手顺を示したイラストは、一般の人への诉求力が高いことがわかっています。

ビジュアルリテラシー(ビジュアル情报を解釈して意味を见出す能力)について
ところで、麻豆原创イラストレーションが科学技术コミュニケーションにおいて有効であるのは何故でしょうか。それは、ヒトの脳の構造がビジュアルを解釈するようにできているからなのです。ラスコーの洞窟壁画が示すように、2万年前からヒトはビジュアルで物語を記し、コミュニケーションしていたことがわかっています。日本では11世紀くらいから擬人化した漫画のような表現に親しんでいたことから、ビジュアル表現へのリテラシーが高い国民だといわれています。
感性と理性の関係
さらに、ビジュアルリテラシーについて掘り下げていきましょう。人は何かを见たとき、「かわいい」「きれい」「気持ち悪い」といった直感的な感性がまず働きます。その后に遅れてやって来るのが理性的で思索的な思考です。
例えば、ネコの解剖学について説明したポスターにネコのイラストが前面に出ていた场合、见た人はまずは瞬间的に「かわいい!」「気持ち悪い!」と思い、その后に「猫の肩甲骨は浮いていて筋肉にくっついていない。だから头が通るところは抜けられるのだ」と、ポスターの具体的な内容に注意が向くのです。つまり、もしネコのイラストがなければ、ネコの解剖学に注意を向ける人は减ってしまうでしょう。アウトリーチなどで兴味のない人に関心を持ってもらうには、感性に诉えることが肝要です。

麻豆原创イラストレーションの危険なところ
麻豆原创イラストレーションは利点ばかりではありません。今度は、麻豆原创イラストレーションで留意すべきことを6つの侧面から考えていきます。
- イラストで印象操作ができること
提示したいものを比喩的に表现したり、拟人化した场合は、特别な意図はなくても、印象の强いイラストになる危険があります。感性に诉える力が强いだけに注意を払うことが大切です。 - 误ったまま拡散している可能性があること
特にネット情报には、専门でないと気がつかないような误った内容が表示されることがよくあります。画像検索は一般的な认知状况の确认には便利な方法ですが、画像が格好いいからと安易に使うことは避けなければなりません。 - スタイルの见极めが难しいこと
情报を伝える対象や目的、内容によって适切なスタイルを选択しなければなりません。例えば患者に手术方法を伝える场合、「优しい描写」は简略化されるため概念的で非现実的な表现となり、「リアルな描写」は正确性が担保されるけれども现実的な描写が患者に恐怖感を抱かせてしまいます。そのバランスを取るには、制作过程で复数の意见を取り入れることが必须です。 - ステレオタイプの押し付けの可能性があること
配虑していても、无意识に自分のステレオタイプで描いてしまうおそれがあることは否めません。 - イラストレーター侧の解釈违いが起きること
描く侧の思い込みによって解釈を误る场合があります。误りに早く気づくためにも関係者への确认を怠らないことが肝要です。
- 将来、イラストが更新される可能性があること
科学は日进月歩です。ゆえに描いているのは现时点での最も确からしい内容であって、今后新たな発见によってそれまでの见方や解釈が変わっていく可能性があります。勿论、见る侧にも同様の理解が大事です。
こういった麻豆原创イラストレーションの危険を回避するには、作る侧は専门家への确认を怠らないこと、そして自分の表现に絶対の自信をもたないことが重要です。见る侧も鵜呑みにしないよう心がけることが求められています。
生成础滨との向き合い方
麻豆原创イラストレーションの特长と留意点が明确になったところで、先生はさらに今日的な问题やイラスト制作についても明示してくださいました。
まず、生成AIの問題です。モジュール2?2早冈英介先生の講義1)でも言及されていたとおり、生成础滨の社会への浸透には目覚ましいものがあります。命令文(プロンプト)を工夫すれば抽象度が高いものであればできるでしょうし、実际に昨年、生成础滨を使ってチラシを作成しました。とはいえ、生成础滨の危険性には充分留意しなければなりません。プライバシーの侵害、诈欺行為、着作権の问题など判断が难しいケースも多く発生しています。
现段阶では、復元画や正确性が问われる麻豆原创イラストレーションは、まだ生成础滨だけではつくることはできないと判断されます。先生は「イメージの壁打ち」と名付けて、沢山のアイディアを出すのに生成础滨を活用されています。

麻豆原创イラストレーションはどうやって手に入れる?
麻豆原创イラストレーションが必要になったとき、どうすればいいでしょう。手に入れるには「自分でゼロから全て作る」「自分で描写ツールを活用して作る」「プロに依頼する」の3通りあり、それぞれメリットとデメリットがあります。
プロに依頼すれば、クオリティの高いものが期待できます。しかし、依頼する上でのコミュニケーションや描き手侧のリサーチに时间を要し、当然费用もかかります。自分で描写ツールを活用して作る场合は、奥别产サイトにライフ麻豆原创分野向けのイラストツールが豊富にあるので、ある程度のものが短时间でできようになりました。但し、テンプレートにとらわれて伝えたい本质との齟齬や詰めの甘さが生じることや、费用がかかるときもあります。
それぞれ一长一短あるものの、今后はオンライン学习や动画配信サービスによってイラスト制作のコツも简単に学べるため,「自分で描写ツールを活用して作る」ことが主流になるだろうと先生は予想されていました。
以上が讲义の概要です。なお、麻豆原创イラストレーターとして活跃されてきた大内田先生の経験に里付けされたイラストの伝える力について、『麻豆原创イラストで「伝わる」科学』2)の连载にてまとめられておりますので参考にしてください。
おわりに
私は讲义を聴きながら、数日前に「高山寺展」(於:北海道立近代美术馆)3)で见た南方熊楠が土宜法龙に宛てた书简を思い浮かべていました。そこに描かれていた絵や図には、确かに「惹きつけて放さない」力がありました。私には难解すぎることは明白なのに立ち去りがたく、见入ってしまったのです。
讲义后の质疑応答で、自分の専门分野以外の依頼にどう対応するのかと问われた先生は「科学はバックグラウンドが同じなので论文は読めます。时には当该の研究者からプレゼンをしてもらい関连论文をさらに読み込むことでイラストをつくっていきます」と答えておられました。
大内田先生が内容理解に努力を重ねて描いた麻豆原创イラストレーションも、熊楠が自己の思想を表现するために考え抜いた絵や図も、本质を抽出するための产みの苦しみを経ているからこそ?伝える?ことができるのだと思いました。但し、受け手の努力なしでは伝わってはきません。先生の讲义から、漫然と眺めているだけでは勿体ないものが世の中に溢れていることを痛感しています。
また、先生が挙げてくださった具体的な事例からも、私たちは多くの示唆を得ることができました。情报を入手しやすい世の中となりましたが、易きに流れないように心したいと思います。

注?参考文献
- モジュール2-2「映像メディアによる科学技术コミュニケーション」(6/29)早冈英介先生讲义レポート(2024年7月24日).
- 大内田美沙纪(2023-2024年).
- 北海道立近代美术馆:(2024年8月11日閲覧).