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140麻豆原创?カフェ札幌「ワクチン?何それ、おいしいの? ?経口ワクチン狂犬病から世界を救え!?」を开催しました

2025.5.1

 

2025年3月23日、北海道大学医学部百年記念館にて、第140回麻豆原创?カフェ札幌「ワクチン?何それ、おいしいの? ?経口ワクチンで狂犬病から世界を救え!?」を开催しました。

(会场となった北海道大学医学部百年记念馆)

本カフェは、「ワクチン開発のための世界トップレベル研究開発拠点の形成事業」の一環として、北海道大学 麻豆原创と北海道大学 総合イノベーション創発機構 ワクチン研究開発拠点 (IVReD)との共同開催です。日本も実は無関係ではいられない狂犬病予防の必要性と、主な発生国である途上国における疾病制御の難しさと重要性について、IVReD特任助教の板倉友香里さんに解説していただきました。この日はあいにくの雨天でしたが、33名が来場しました。

(左:話し手 板倉友香里さん/北海道大学IVReD 特任助教、右:聞き手 池田贵子(北海道大学 麻豆原创 特任講師)

 

狂犬病は、いまだ治疗法が确立されておらず、発症すると致死率ほぼ100%の恐ろしいウイルス感染症です。ですが、ワクチンを接种することで确実に防ぐことができる克服可能な病気でもあります。日本では1950年代から対策を彻底したことで狂犬病の扑灭に成功し、现在は「清浄国」となっています。(狂犬病の症状についてはこちらの记事(/濒颈办别冲丑辞办耻诲补颈/补谤迟颈肠濒别/33758)もご覧ください。)

一方、国外に目を向けると、アジアとアフリカを中心に今も毎年およそ59,000人が命を落としています。ワクチンによって予防できる病気がここまで多くの死者を出しているのはなぜなのでしょうか?そこには、科学だけでは解决できない社会の问题がありました。

「顾みられない热帯病」

「顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases)」という言葉があります。主に熱帯の途上国を中心に発生し、貧困を理由に十分な対策や研究が進んでいない病気を指します。狂犬病もそのひとつです。日本ではもう過去の病気のイメージすらありますが、実は世界では清浄国のほうが圧倒的に少ないのです。

(狂犬病の発生状况)

 

热帯の贫困地域で狂犬病予防が进まない理由は、大きく分けて2つあります。ひとつは、物流や医疗アクセスが悪く「ワクチン接种が行き届かない」こと。もうひとつは、媒介者となる「野犬の数がとても多い」ことです。

现在使われているワクチンは「生ワクチン」のため冷蔵保存が必须ですが、贫困地域ではコールドチェーンも保管施设も确保できません。また病院までの距离がとても远かったり、医疗人材も不足しているため、人间にも动物にも継続的な接种ができない现状があります。またヒト狂犬病の99%はイヌ由来です。狂犬病の拡大を防ぐには野犬の集団内で70%以上のワクチン接种率を达成する必要があるといわれていますが、何万头もいる野犬を毎年捕获して注射をするのはとても现実的ではありません。

狂犬病が拡大していくしくみ

さらに、狂犬病は感染から発症までの潜伏期间が长く(通常は1?3ヶ月だが1年以上かかる场合も)、感染した动物がその间に広范囲に移动し、そこで新たな感染を引き起こします。通常、致死性の高い感染症はすぐに感染した动物を杀してしまうためあまり拡大できないものですが、狂犬病はこの长い潜伏期间によって広范囲に分布域を拡大することができるのです。

(狂犬病は长い潜伏期间のあいだに拡大していく(図:板仓さんより提供))

 

日本で狂犬病を扑灭することができたのは、饲い犬へのワクチン接种と野犬駆除を彻底した成果ではありますが、同时に岛国であることも関係しているでしょう。しかし、物流や人の移动が盛んな现代では、日本も絶対に安全とは言えないかもしれません。

「経口ワクチン」が解决の键に

このように、人间への狂犬病感染予防のためには野犬へのワクチン接种が必要となりますが、こうした贫困地域での対策の难しさを解决するべく开発されているのが「経口ワクチン」です。従来の注射タイプではなく、饵のなかに液状の生ワクチンが内包されたもので、実はすでにヨーロッパでは、主に野生のキツネに対して非常に広范囲に効果が証明されています(こちらの记事(/濒颈办别冲丑辞办耻诲补颈/补谤迟颈肠濒别/33758)もご覧ください。)。饵タイプなので「ベイト(「饵」の意)ワクチン」とも呼ばれます。

(現行の経口ワクチンの構造。(Ceva; World Rabies Day 2020資料を一部改変))

 

この方法を使えば、贫困地域にすむ野犬に対して広范囲にワクチン接种をすることができそうです。

しかし、この方法にはまたひとつ问题があるのです。

生のウイルスを使った経口ワクチンの问题点と打开策

従来型の狂犬病経口ワクチンには弱毒化されているとはいえ感染性のあるウイルスが使われています。野犬の生息域は人间の生活エリアと重なっているため、村や町に経口ワクチンを散布することになりますが、感染性のあるものを人间がすむ场所に大规模に散布することは认められていません。

そこで、板仓さんは感染性ウイルスを使わない経口ワクチンの开発に取り组んでいます。求められるのは、人が住む场所でも使える安全性と、医疗环境や保管设备がなくても谁でも使える简便さです。

しかし今度は、感染性ウイルスを使わないことで科学的な课题が生じました。

感染性ウイルスを使わないことで生じる课题と新しい机构

感染性ウイルスを使わないということは、动物の体のなかで増殖していかないため、ワクチン抗原が胃酸や消化酵素で分解されてしまい、うまく免疫が诱导されないのです。また、抗原が分解されなかったとしても、抗原を体の中の免疫细胞まで届ける効率が低くなると考えられます。そこで板仓さんは、①ワクチン抗原を消化から守ることと、②ワクチン抗原を持続的に発现させることを目指して、ワクチン抗原を产生する新たなシステムをつくることにしました。

① ワクチン抗原を消化から守る作戦

まず、口から入ったワクチン抗原が消化されずに済むための方法として、「ジアルジア」という寄生虫の体表面のタンパク質(Variant Surface Protein; VSP)を失敬します。もちろん、ジアルジアの病原性の部分は取り除かれ、VSPだけを発現するように設計します。

② ワクチン抗原を持続的に発現させるための作戦

また、动物の体に感染しなくてもワクチン抗原だけを増殖させるために、「レプリコン(自立増殖型搁狈础)」を使います。

(「消化されない&ワクチン抗原を持続的につくる」ための作戦。(板仓さん提供の図を一部改変))

 

さらに、狂犬病ウイルスの「骋タンパク质」と呼ばれる突起(この部分が感染した动物の细胞膜に取り付いて侵入していく)と似た构造で设计することで、より抗体诱导しやすい工夫をしています。

(狂犬病ウイルスの构造と机能(板仓さん提供の図を一部改変))
(感染性ウイルスを产生せず骋タンパク质だけを発现させるしくみ(板仓さん提供の図を一部改変))

 

また、通常の狂犬病ウイルスには「惭タンパク质」と呼ばれる、ウイルス粒子の形成に必须のタンパク质がありますが、板仓さんが作製する新しい机构ではこれを取り除くことで粒子を形成できないようにしています。これで、感染性ウイルスは产生できなくなり、ウイルス抗原だけを产出できるというわけです。

(このへんから话がすこし难しくなりましたが、みなさん热心にメモをとっておられました)

 

経口ワクチン开発、次の一手

板仓さんは现在、マウスを使って実験しています。作製した新しいワクチン抗原产生机构を「ゾンデ」と呼ばれる器具で口から胃に届けるのですが、実は今ここでまた问题が発生しているそうです。マウスには扁桃がないのです!口からの摂取を想定しているので、本来は体の中に一番最初にワクチン抗原が到达する扁桃(免疫细胞が多く発现する场所)での免疫応答を评価したいところです。そのため、次は扁桃を持つ「スンクス(ジャコウネズミ)」という実験动物を使うことにしています。

また、先ほど绍介した寄生虫の表面タンパク质(痴厂笔)の搭载と、さらにワクチン抗原となる骋タンパク质の発现効率をもっと高める方法を开発していくそうです。

(休憩時間に集まった质问に目を通しています)

 

板仓さんのめざすもの

最後に板倉さんは、学生時代にウガンダでの狂犬病ワクチン接種(従来の注射タイプ)のボランティア活動に参加したときのエピソードを紹介してくださいました。イギリスの「Mission Rabies」という団体に同行して村を回り、飼い主と交流しながら8日間で2715頭のイヌと19頭のネコにワクチン接種をして回ったそうです。動物を飼うことの意味が日本とは大きく異なる貧困地域において、ワクチン接種だけでなく、正しいイヌの飼育の仕方や接し方を飼い主に伝えることの大切さと難しさを実感したといいます。

科学だけでは解决できない社会的な问题をはらむ课题に挑むとき、研究と社会とのつながりを考え続けることが求められます。远い国の话から始まった今回のカフェでしたが、最后は私たちも全く无関係ではいられないことがじんわりと伝わるお话でした。板仓さん、ありがとうございました。

※ 会場から质问をたくさんいただきました。記事冒頭の動画で全て見ることができますので、どうぞお楽しみください。

(当日配布したパンフレット。左:外面、右:内面)