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#41 云の中や地の果てで観测研究/菊地胜弘さん(北大名誉教授)

「雪、降らないかな」と空を見上げるのは、元 大学院理学研究科教授の菊地胜弘さん(北大名誉教授)。菊地さんの専門分野は雲や雷、雪といった漢字に雨冠(あめかんむり)の付いた自然現象です。時には雲粒の電気的性質を調べるために手稲山に籠り、またある時にはまだ見ぬ雪の結晶を求めて南極や北極圏にも足を運んで観测研究を行いました。

今回は、中谷宇吉郎先生との思い出、菊地さんが取り组んできた研究、さらには、现在取り组んでいる新しい研究について伺いました。菊地さんが観ている景色に迫りました。

【小林 良彦?麻豆原创特任助教】

中谷宇吉郎先生の孙弟子として研究生活をスタート

「僕は中谷宇吉郎の流れをくんでやってきましたから。」と语る菊地さんは、当时の理学部地球物理学第叁讲座(気象学)として発足した孙野长治(まごのちょうじ)教授の大学院生として気象学や大気电気学(雷など)の研究の世界に飞び込みました。1957年のことでした。

(后列右から3人目が孙野先生、4人目が中谷先生。写真は1955年に中谷邸で撮影されたもの。)〈北海道大学大学文书馆所蔵〉

「そういう分野を僕は“雨冠の気象学”って言っています。云とか雨とか、雪とか雷とか。それを集中的にやりたいと思っていたのが中谷先生で、中谷先生の爱弟子が孙野长治先生でね。僕は孙野先生の研究室の1期生でした。」

(取材は北大総合博物馆(旧理学部本馆)の会议室で行いました。)

孙野研究室のゼミは中谷研究室と合同でやっていたそうです。当时のエピソードも教えてくれました。

「大学院生は僕を入れて2名。教官は8名でしたので、赘沢なゼミでした。たまたま僕が论文绍介をやるときに、中谷先生が隣に座ってね。当时、パワーポイントはもちろん、まだスライドも使えなかった时代ですから、论文绍介のための资料は模造纸に笔でグラフとかを书いていました。それ见ながら中谷先生が「菊地君、今どこを説明しているんだい」と闻かれたりして、冷や汗ものでしたよ(笑)。」

中谷先生とも交流しながら勉强?研究に励んだ大学院生时代。菊地さんが孙野研究室でまず取り组んだのは雷に関する研究でした。

大変だったが楽しかった手稲山での雷研究

孫野先生は、雷云の中の電気について明らかにするという研究テーマを掲げていました。その背景にも中谷先生の存在があったようです。「なんで雷だったのでしょうか」という質問に菊地さんは当時の雷研究の状況も交えて答えてくれました。

「中谷先生の随笔に『雪』と『雷』がありますね1)。雪の研究は結晶の分類と人工雪が有名ですね。雷については中谷先生が具体的に何かをしていたわけではないんです。中谷先生がロンドンに留学しているときに、シンプソンとウィルソンという研究者がいましてね。雷云の電気的構造について論争をしていました。シンプソンは雷云の上の方にマイナス(ー)があって下がプラス(+)、ウィルソンはいや上がプラスで下がマイナスだと言ってね、大論争になっていたんです2)。中谷先生は世界の大御所の先生方の論争を聞いて、面白いと感じて岩波新書に雷の話を書いたんですよ。」

中谷先生の新書をきっかけに国内でも雷云の電気的構造がホットな話題になりました。菊地さんは、雷云の中の電気を担っている雲粒や氷粒を”云の中に入って”研究するために、手稲山頂へ向かいました。小さな小屋を二つ建てて、研究に励んでいたそうです。

「小屋は畳二枚分の広さでした。その中で寝たり、石油コンロでご饭を炊いたりしていました。もう一つ同じ小屋を建てて、そこに観测装置を置きました。」

(観测装置の図を指さす菊地さん3)。)

小屋が雪に埋もれてしまった日もあったそうです。「辛くなかったんですか」と聞くと、「辛いとは思わなかったですね。」と笑顔で振り返ってくれました。菊地さんの手稲山での観测研究は、雲粒が液体のときはプラス(+)、氷粒になるとマイナス(-)に帯電していることを日本で初めて明らかにすることに成功しました3)。

(楽しそうに当时の研究を振り返ってくれた菊地さん。)

1960年代からは、菊地さんの兴味が雪の结晶に向いていきました。

まだ见ぬ雪の结晶を求めて南极?北极へ

中谷先生は、雪の結晶に関する研究成果をまとめた著書『Snow Crystal』4) で、雪の结晶を41种类の「一般分类」として表しました。さらに、それらの结晶の成长条件をダイヤグラムに表しました。これが雪の结晶の成长条件を温度と湿度で表した「中谷ダイヤグラム」です。当时は、“雪の结晶の种类はもうこれしかない”とも思われていたそうですが、孙野先生は违う考えを持っていたようです。

「雷の研究が一段落したら孙野先生が「雪の结晶はもっとあるんじゃないか」と言ってね。石狩平野やもっと広い地域で観测をして、“雪の结晶は中谷先生の言った41种类よりももっとあるぞ”と分かってきました。その结果、「気象学的分类」として80种に分类しました5)。」

孙野先生の兴味が雪の结晶に向いていったことに併せて、菊地さんも雪の结晶の研究にのめり込んでいきました。そんな中、南极で不思议な雪の结晶が见つかりました。

「北大低温科学研究所に清水弘さんという方がいてね。その人がアメリカ隊で南極に行っていたんですよ。そのときに、“Long Prism”と呼ばれる雪の結晶を見つけたんです6)。“长い角柱”结晶ですね。これはセンセーショナルでした。中谷の分类、孙野の分类にもない结晶でね。へ~!まだあるんだ!と。」

(Long Prismの顕微鏡写真が載った論文5)。)

菊地さんは1968年2月~1969年1月にかけての1年间、第9次日本南极地域観测队越冬队员として、南极?昭和基地に滞在し、気象に関する越冬観测を行いました。この南极での研究で、菊地さんは1974年に日本気象学会赏を受赏されました。さらに、1975年と1978年にはアメリカ南极観测队员として、南极点基地にて研究を行いました。南极滞在中は、雪の结晶の研究にも取り组み、新たな発见を続けました。菊地さんは、これらの研究によって、1997年に紫綬褒章を受赏されました。

(カナダ北極圏ノースウエスト準州イヌビックで観测研究をする菊地さん。1986年撮影)〈写真提供:菊地胜弘さん〉

南极の次は、カナダの北极圏やグリーンランドでも雪の结晶の研究に取り组みました。北极圏でも「出てくるわ出てくるわ」という感じで新しい発见が相次ぎました。北极圏での研究は2000年代に入った后まで継続されました。その间、菊地さんは1998年に北大を退职され、1999年から2005年までは秋田県立大学で勤务されていました。

菊地さんは北欧などでも観测研究を行いました。足掛け40年にも及ぶ観测研究の成果を整理し、菊地さんは121種類の雪の結晶を載せた分類表を完成させ、2011年に発表しました7)。その分类表は、世界规模にわたっているため、「グローバル分类」と名付けられました。「北极圏での研究がなければグローバル分类はできなかったですね。」と菊地さんは振り返ります。

(「グローバル分类」と呼ばれる雪の结晶の分类表8)。)
観ようと思えば観える

菊地さんは学生や若者に赠る言叶として「観ようと思えば见える」というフレーズを好んで使っているそうです。そのフレーズには、菊地さんの研究者としての姿势や心构えが込められていました。

「僕は南极や北极で雪の结晶をたくさん観ているうちに、こんなのもある、あんなのもあると、新しい雪の结晶を発见できました。僕が见つけた雪の结晶も昔から降っていたはずなんですよね。だけど、“あ、これが雪ね”で终わっていたから、分からなかったのであってね。つまり、観ようと思わないと、どんなものでも本当の姿が见えてこないと思っています。」

観ようと思う。これは研究の根底にある大切な姿势だと、菊地さんの话を闻きながら、改めて感じました。

俳句と気象学を行き来する日々

秋田県立大学を退职された后、菊地さんは札幌に戻って生活しています。现在は俳句に没头しているそうです。季题(季语)には気象用语が多いことも俳句が菊地さんを惹きつける要因のようです。

菊地さんは俳句をやる际にも、「観ようと思う」姿势を贯いています。つい最近も、季题(季语)として使われる気象用语に関する研究を进めています9)。

一呼吸置いて、観ようと思う。すると、今まで见えていなかった景色を见ることができるのかもしれません。それは、俳句で咏まれるような、身の回りの自然现象に対しても言えることなのだと思います。

とは言え、俳句は一筋縄ではいかないようです。「だけれども、観えたからといって、俳句が上手になるわけじゃないんですけどね(笑)」という菊地さんの呟きに笑い合って、取材を终えました。

(「グローバル分类」のポストカードを持つ笑颜の菊地さん。)
(「グローバル分类」に関するグッズは北大総合博物馆ミュージアムショップ「ぽとろ」にて贩売中。)

注?参考文献:

  1. 中谷宇吉郎 1939:『雪』岩波新書、中谷宇吉郎 1939:『雷』岩波書店.
  2. 现在では、雷云は下层の一部がプラス、中层がマイナス、上层がプラスに帯电しており、「3极构造」をなしていることが分かっています。より详しく雷について知りたい方は、以下の菊地さんの着书も参考になります。
     菊地勝弘2008:『雲と霧と雨の世界』成山堂書店、菊地勝弘 2009:『雪と雷の世界』成山堂書店.
  3. 孫野長治?菊地勝弘 1960:「冬期の雲粒の電荷測定」『雪氷』22巻2号,41-47.
      C. Magono and K. Kikuchi 1961: “On the Electric Charge of Relatively Large Natural Cloud Particles”, J. Meteorol. Soc. Jpn. 39, 258-268.
  4. U. Nakaya 1954: “Snow Crystals, Natural and Artificial” Harvard Univ. Press.
  5. C. Magono and C. W. Lee 1966: “Meteorological classification of natural snow crystals”, J. Fac. Sci. Hokkaido Univ. Ser. VII 4, 321-335.
  6. H. Shimizu 1963: ““Long Prism” crystals observed in precipitation in Antarctica” J. Meteorol. Soc. Jpn 41 305-307.
  7. 菊地勝弘?梶川正弘 2011:『雪の結晶図鑑』(北海道新聞社).
  8. K. Kikuchi, et al. 2013: “A global classification of snow crystals, ice crystals, and solid precipitation based on observations from middle latitudes to polar regions” Atmos. Res. 132, 460-472.
  9. 菊地勝弘 2021:「歳时记と気象用語」『天気』68巻1号,31-35.

 

中谷宇吉郎先生や孙野长治先生を绍介しているこちらの记事もご覧ください

  • 【みぃつけた】#12 中谷宇吉郎の書画と「雪の化石」、北大に寄贈(2019年6月3日)
  • 【チェックイン】2020年は中谷宇吉郎博士生诞120周年(2020年11月16日)
  • 【チェックイン】中谷宇吉郎復元研究室にある孙野长治の机(2021年01月18日)

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