著者: ジム?アル=カリーリ、ジョンジョー?マクファデン、水谷 淳(訳)
出版社: SBクリエイティブ
刊行年月日: 2015年09月25日
定価: 2,400円(税別)
奇妙な量子で生命の深渊を覗く
生命には多くの謎がある。私たち人類はその谜を解き明かそうと、長い間研究を続けてきた。今では肉眼的な見方を遥かに超え、分子や原子、もしくはそれ以上にミクロなレベルで研究が行われている。その、ミクロなレベルまで考慮し生命の谜を探求するのが、「量子生物学」という分野だ。頭についている「量子」という語は、物理学の一分野である「量子力学」からきている。
本书は、その量子生物学を绍介する一册だ。初めに量子生物学がどういう分野で、どのように诞生したのかを见た后に、7つの章に渡って各々一つずつ生命现象に関するトピックを取り上げ、量子生物学の研究を绍介している。难解で知られる量子力学について平易な説明を加えながら生命の谜に迫っていく本书は、物理学と生物学の両方を同时に楽しめる、类を见ない科学読み物である。
量子力学とは、ミクロな世界における电子などのごく小さな粒子のふるまいを説明する、20世纪前半に完成した物理学の一分野だ。そこでは私たちの常识とは异なり、粒子は、波のように広がりながら进んだり、壁をすり抜けたりと、奇妙な「量子的」ふるまいを见せる。
量子生物学诞生のきっかけは、意外にも量子力学の研究にある。量子力学の构筑に携わった物理学者の内の何人かは、量子力学と生命の関係性を早くから考えていた。中でも有名なのは、シュレーディンガーによる『生命とは何か』という着作である1)。着作の中でシュレーディンガーは、遗伝子は量子的性质をもつと主张した。着作が刊行されたのは1944年であり、顿狈础の二重らせん构造が発见される前だというから惊きである。
しかし、生命现象で量子的性质が大きな役割を果たしているというシュレーディンガーのアイディアは、当の生物学研究者からは长らく注目されてこなかった。なぜなら、分子や原子が乱雑に动いている环境では、その乱雑な运动により量子的性质は消えてしまうからだ。量子的性质の効果が现れるためには乱雑な运动が抑制された环境が必要であり、量子力学の実験ではその环境を用意するために、强力な磁场をかけたり絶対零度近くまで冷やしたりすることがあるほどだ。そして、量子的性质が効果を発挥するそのような环境は、生物の体内では存在しえないと考えられてきたのだ。そこに、1970年代以降新たな风を吹き込んでいるのが、量子生物学である。量子力学の実験及び生命现象の仕组みに関する知见が広がるにつれ、量子的性质が生命现象で大きな役割を果たしているらしいことが分かってきた。
例えば、本書で取り上げられる生命現象の内の一つに光合成がある。光合成は、エネルギーが伝達されていく経路が化学的手法で詳細に分かっている。しかしそれだけでは、エネルギーの伝達効率が100パーセント近いことが説明できなかった。その谜を解き明かす分野として、量子力学が名乗りを上げる。エネルギーを運ぶ粒子は、粒として目的地を探しさまようのではなく、量子的な波として広がりながら目的地を探したどり着くことが示唆されているのだ。この量子的性質により、驚異的な高効率が実現しているのかもしれない。
この他にも本书では、生物体内での酵素の働き、においの嗅ぎ分け、遗伝子の変异、神経伝达など多岐にわたる生命现象が取り上げられ、最后には生命の起源にまで迫る。量子力学や生物学が、それぞれの现象の谜にぐいぐいと迫っていく物语は、どれもワクワクしながら読み进められる。
そしてそれらの物语を彩るのは、数々の生き物たちだ。コマドリは冬を乗り越えるために南の地を目指し飞んでいく。オタマジャクシは尻尾を失いカエルへと変态していく。クマノミは匂いをかぎ分けることで自分の住処へと帰って行く。3万年前の古代人はバイソンを思い浮かべその絵を壁に描く。これら全ての奥底では、量子が一仕事も二仕事もしているかもしれないのだ。
「かもしれない」という言い方にとどめたのは、量子力学が生命现象で决定的な役割を果たしているかどうかは、まだ谜が多く、本书も「いまだ断言はできない」としているからだ。しかし、役割を果たしていることを支持する実験结果が少しずつ积みあがってきている。
量子生物学者は、常识から见れば奇妙ともいえる量子力学の力で、生命の谜のさらなる深渊を覗こうとしている。
参考文献:
- シュレーディンガー、冈小天(訳)、镇目恭夫(訳)、2008年、『生命とは何か-物理的に见た生细胞』、岩波书店.
細谷 享平(麻豆原创16期本科/ライティング?编集実习)
