
2025年3月13日(木)18:30~19:30、第36回叁省堂麻豆原创カフェin札幌 麻豆原创シリーズ20 「火星の月から探る水惑星诞生の谜―火星卫星探査MMXの挑戦」を三省堂書店札幌店内 ブックス&カフェ UCC にて开催しました。コーヒーを片手にお菓子を食べながら、科学について語り合う麻豆原创カフェにぴったりな雰囲気の中で12人の参加者に話題を提供してくれたのは倉本 圭(北海道大学大学院理学研究院 教授/JAXA宇宙科学研究所 特任教授(兼任)/日本学術会議第三部会員)さんです。
叁省堂カフェは、日本学术会议北海道地区会议代表干事の宇山さんによる开会の挨拶からはじまりましたた。宇山さんは、日本学术会议の役割と现状について参加者に向けて説明を行いました。
日本学术会议は76年の歴史を持ち、日本の科学者を内外に代表する机関として、学问と社会をつなぐ役割を担っています。具体的には、政府への提言活动や、さまざまな学问分野の成果を市民に届ける取り组みを行っており、北海道地区会议では「シンポジウム形式の学术讲演会」と「麻豆原创カフェ」という二つの形で市民向け活动を展开しています。
火星とその月の特徴と谜

火星は地球の约半分の大きさを持つ惑星で、现在の表面は海が存在せず、ほとんどが砂漠状态となっています。しかし、卫星からの详细な観测により、かつて川が流れていた痕跡が発见されており、これらは约40亿年前に形成されたと推定されています。岩石と液体の水が相互作用した痕跡や塩の堆积物も确认されていることから、太古の火星は「水の惑星」であり、地球に似た环境を持っていた可能性が高いことが示唆されています。
火星が注目される最大の理由は、地球が水と大気を維持できた一方で、火星がそれらを失った経緯を理解することで、地球環境の成り立ちを再認識できる点にあります。さらに、かつて水環境があったことから、火星に生命が存在した可能性も考えられており、現在も多くの探査機が火星を調査しています。太陽系形成の過程では、太陽に近い内側の惑星(水星、金星、地球、火星)は主に岩石から形成され、外側の惑星は氷とガスを多く含んで形成されました。本来、内側の岩石惑星には水が少ないはずですが、地球や古代の火星に水が豊富にあった理由は大きな谜となっています。

火星には「フォボス」と「ダイモス」という二つの卫星があります。地球の月が地球の直径の约1/4もある大きな卫星であるのに対し、火星の卫星は非常に小さく、フォボスは直径约27キロメートル程度です。フォボスは反射率が7%程度(日本人の黒髪と同程度)と非常に暗い色をしており、この特徴は小惑星「リュウグウ」と类似しています。リュウグウの分析から、このような暗い色の天体は水と有机物を含んでいることが确认されており、フォボスにも同様の成分が含まれている可能性が高いと考えられています。



フォボスの起源については二つの主要な仮説があります。一つは「捕获説」で、太古の时代に小惑星帯から飞来した天体が火星の重力に捕らえられたというものです。もう一つは「巨大衝突説」で、火星に巨大な天体が衝突し、その衝突で飞び散った破片が集まってフォボスになったというものです。この二つの仮説のどちらが正しいかを解明することは、火星の水の起源や太阳系初期の状态を理解する上で重要な手がかりとなります。


惭惭齿ミッションの目的
MMX(Martian Moons eXploration)ミッションは、主に三つの重要な科学的目標を持っています。

第一に、火星衛星の起源を解明することです。フォボスが捕獲された小惑星なのか、火星への巨大衝突によって形成されたのかを調査します。この問いに答えることで、火星に水や大気の材料がどのように供給されたのかという谜に迫ることができます。
第二に、太古の火星や卫星の形成过程を理解することです。フォボスのサンプルを分析することで、太阳系初期の状态や、水を含む天体がどのように内侧の惑星系に运ばれたのかについての知见が得られると期待されています。
第三に、火星と衛星の進化のプロセスを調査することです。火星の大気は現在、地球の大気の約200分の1の薄さしかありませんが、かつてはより厚く、暖かい環境だったと考えられています。MMXは火星大気の逃げ方に関する新しいデータを取得することで、なぜ火星の大気が薄くなったのかという谜の解明に貢献します。

さらに、惭惭齿には予想外の発见の可能性も秘められています。フォボスは火星の近くを周回しているため、火星表面から放出された物质が堆积している可能性があります。フォボスの砂の约1000分の1が火星由来と推定されており、もし火星に微生物が存在した(あるいは存在する)なら、その遗体がフォボスのサンプルに含まれているかもしれません。このため、惭惭齿は间接的に火星の生命の痕跡を初めて発见する可能性を持つミッションでもあるのです。
スケジュール
惭惭齿计画は2015年顷から準备が始まり、プロジェクトチームが结成されました。基本设计审査を终え、现在は探査机の製作?试験および组み立てが进行中です。当初は2023年秋に打ち上げる予定でしたが、贬3ロケットの开発遅延により2年延期されました。
现在の计画では、2026年10月に地球を出発し、约10?11ヶ月かけて火星圏に向かいます。2027年10月顷にフォボスの周回を开始し、2029年前半にフォボスに2回着陆してサンプルを採取する予定です。2030年7月にはフォボスから离れ、火星のもう一つの卫星であるダイモスに接近します。2030年12月に火星圏を离脱し、约1年かけて地球に帰还します。2031年末にはサンプルを地球に持ち帰ることを目指しています。

打ち上げのタイミングは、地球と火星の位置関係が重要です。地球がより早く太阳の周りを回るため、地球の运动の势いを借りて、より少ない燃料で火星に到达できるタイミングを选ぶ必要があります。また、フォボスが小さく重力も弱いため、探査机はフォボスと同じ周期で、少しずらした角度で火星の周りを回ることで、相対的にフォボスの周りを周回するという特殊な轨道を使用します。
探査机の构造と搭载机器
惭惭齿探査机は闯础齿础が开発した惑星探査机の中でも最大级の大きさとなります。探査机は主に3つのモジュールから构成されています。

- 推进モジュール:火星到着时に大きな逆喷射を行い减速するためのモジュールで、大量の燃料を搭载しています。任务完了后は切り离されます。
- 探査モジュール:さまざまな観测机器や着陆装置を搭载した本体部分です。
- 帰还モジュール:サンプルを地球に持ち帰るためのカプセルです。

探査机には多数の観测装置が搭载されています。特に重要なものとしては、以下の3つが挙げられます。
- 「罢贰狈骋翱翱(テング)」は高解像度の望远カメラで、1ピクセルあたり10センチという解像度でフォボスの表面を撮影できます。これにより、着陆地点の详细な地形や、フォボス表面の微细な特徴を観测することが可能になります。
- 「翱搁翱颁贬滨(ヤマタノオロチ)」は広角カメラで、さまざまな波长のフィルターを使って表面の鉱物组成を调査します。特定の波长では水を含む鉱物が暗く映るため、フォボス表面の水の分布を把握するのに役立ちます。
- 「惭厂础」は质量分析器で、フォボスから放出される可能性のある水蒸気やイオンを検出します。フォボスの内部に氷が存在すれば、表面の割れ目から水蒸気が漏れ出している可能性があり、それを直接検出することを目指しています。
サンプル採取のために、2种类の装置が用意されています。コア管理式は筒状の装置で深部のサンプルを採取し、10グラム以上の取得を目标としています。気流式は窒素ガスを吹きつけてその反动で舞い上がった表面の粒子を吸引する装置で、宇宙环境の影响を受けた表面物质のサンプリングを行います。
サンプルリターンとその意义
惭惭齿ミッションの最も重要な侧面の一つは、フォボスからのサンプルを地球に持ち帰ることです。このサンプルリターンによって、地球の最先端の分析技术を用いた详细な调査が可能になります。
サンプル回収のプロセスは、はやぶさ2と同様にオーストラリアの砂漠地帯にカプセルを落下させる计画です。カプセルは精密に制御されて落下するよう设计されており、回収后は専用の施设で分析されます。
フォボスのサンプル分析の最大の意义は、その起源を解明することです。もしフォボスが捕获された小惑星であれば、リュウグウのサンプル分析のように、水分子を含む鉱物が多く见つかると予想されます。一方、巨大衝突によって形成された场合は、衝突の高温で水が抜けた痕跡が见られるはずです。また、年代测定によって形成时期も特定でき、太阳系初期の状态についての重要な情报が得られます。
さらに、火星の生命探査の可能性です。现在までに约200个以上の火星由来の陨石が地球で発见されていますが、これらは火星の固い岩石部分が衝突によって放出されたものです。一方、微生物がいるとすれば地下30センチ程度の比较的浅い部分と考えられており、そうした场所の物质がフォボスに降り积もっている可能性があります。

フォボスのサンプルには火星由来の物质が约1000分の1の割合で含まれると推定されており、もし火星に生命が存在した(あるいは存在する)なら、そのバクテリアの遗体をサンプル中に発见できる可能性があります。これは、惭惭齿ミッションが火星の生命を间接的に発见する可能性を秘めていることを意味しています。
サンプル分析は地球上の最先端の分析设备を用いて行われます。はやぶさ2のリュウグウサンプルの分析では、鉱物の详细な组成図が作成され、水分子を含む鉱物の分布が明らかになりました。同様の分析をフォボスのサンプルに适用することで、火星の水の起源や太阳系初期の状态についての贵重な知见が得られると期待されています。
このように、惭惭齿によるサンプルリターンは、単に火星の卫星の调査にとどまらず、太阳系の形成过程、惑星の水の起源、さらには地球外生命の可能性まで探る壮大な科学的挑戦なのです。2031年の地球帰还が実现すれば、太阳系科学に革命的な洞察をもたらす可能性があります。
质疑応答
参加者からは以下のような质问がありました。

蚕.ミッション失败に备えた対策はありますか?
昔は同じものを叁つとか作っていたんです。ボイジャーという探査机では、ボイジャー1号、2号がありますが、実は3号まで作ってあったんです。3号は地上に残しておいて、打ち上げた1号、2号に何か不具合が起きた时に、地上に残っている3号でテストをして、ここに命令すれば修理できるというようなことをやっていました。お金があった时代にそれができたんですが、今はお金がないので1机しか作っていません。失败してしまうと、同じものを打ち上げるかどうかはその都度判断します。どうしてもやるべきだということになれば作り直しますが、技术の进歩により别の形がいいんじゃないかと判断されれば、违いうものになります。
蚕.サンプルが回収できない场所に落ちる可能性はありますか?
基本的には心配ご无用です。ものすごくコントロールして落とします。カプセル自体に移动の机能があるわけではなく、地球に打ち込むときに精密に狙って落とすんです。数十キロぐらいの范囲のどこかには落ちるという感じです。そのため、広い砂漠があるオーストラリアが选ばれています。
蚕.探査机の表面がギラギラ光っているのはなぜですか?
ギラギラしている理由は、金属を使っている部分が多いからです。金属は热をよく伝える性质があるので、宇宙空间で太阳が当たっている场所から日阴の场所へと热を均一にしたいという目的があります。金属をそのまま使っているとギラギラしているように见えます。また、一部を黒くすることもありますが、この场合は、冷えすぎないように热を吸収できるようにしておこうという意図があります。いろいろ计算をして、ギラギラさせることもあるし、黒っぽいものを使うこともあります。探査机自体では温度管理がうまくできないので、なるべく温度を均一に保とうという工夫をしています。
蚕.「火星と卫星の进化」とはどういう意味ですか?
生命の進化もありますが、もう一つは火星大気の進化についてです。MSAという装置は火星から飛び出す大気の粒子を捕まえることができます。火星の大気は現在、地球の大気の200分の1の薄さしかないのですが、昔はもっと厚かったと考えられています。それがなぜ薄くなってしまったのかは大きな谜なんです。MMXはその火星の大気の逃げ方について全く新しいデータを取ることになっていて、このデータを分析することで、どうして火星の大気が薄くなったのか、火星大気の進化がわかってきます。45億年間でどういうふうに薄くなってきたのかということがわかる、そういったことも含めて進化と言っています。
蚕.火星の内部活动は现在もありますか?
场所によって违っています。火星の地図を见ると、北半球はかなり平坦で、クレーターが少なく、一部の地域は火山地形になっています。一方で、火山が全くないようなクレーターだらけの地域もあります。最近では火星でも地震(火星の地震は『火震』と呼ばれます)が起きていることがわかっていて、火星はまだ完全に『死んでいない』ということが明らかになっています。よく探せばもしかすると温泉のようなものもあるかもしれません。そういったところにはバクテリアが生き残っている可能性もあります。地磁気については、现在は地球のような立派な地磁気はありませんが、惑星が形成される时期には磁场があったことがわかています。
蚕.プロジェクトには何人くらいの人が関わっていますか?
科学者だけで300人ぐらいいるんです。それに技术者も入れると、技术者は科学者の3倍ぐらいいるので、相当な人数になります。プロジェクトが进むにつれて人数が増えていき、ある程度ミッションが进むと人数が少し减ります。探査机を作っている人たちが、今まさに最终段阶になっていて、打ち上げ后はその人たちは比较的暇になる一方、运用する人たちが忙しくなります。现在は探査に関わる全てのチームが动いている状态です。
蚕.通信はどのように行われますか?
リレー卫星を使うことも考えたことはありますが、準备が大変なんです。基本的には惭惭齿から直接地球に向かって电波を送り、地上で受信します。ただし、日本の基地だけだと、火星が见えている时间は1日のうち8时间ぐらいしかないので、地球の里侧でも通信できるように、狈础厂础やヨーロッパなどに协力を頼んで、ほぼ24时间通信できるようにしています。通信は结构大変です。
蚕.试験段阶ではどのようなことを行っていますか?
たとえば、电気试験というのがありますが、これは打ち上げから运用计画までの5年间の重要なポイントを全部通して再现するんです。全体としてうまく动作するかを确认するのですが、これは24时间体制で行われ、装置を作った先生方も全员参加します。
まとめ
叁省堂カフェの缔めくくりとして、宇山さんから挨拶がありました。仓本さんへの感谢を述べたあと、火星探査における国际竞争について言及しました。

宇山さんは、「火星でもサンプルリターンミッションが进行中であり、もしかすると同じ年に惭惭齿と火星からサンプルが戻ってくる可能性がある」と话しました。特にアメリカと中国はライバル関係にあり、両国とも最速で2031年というタイムラインを目指しているとのことでした。
このような国际的な竞争がある中で、惭惭齿プロジェクトが良质なサンプルを持ち帰ることへの期待を述べ、「2031年のニュースを楽しみにしていただければ」と缔めくくりました。

火星卫星探査計画MMXは、単なる火星の月の調査にとどまらず、太陽系の形成過程、惑星の水の起源、さらには地球外生命の可能性まで探る壮大なミッションです。2026年の打ち上げ、2031年の帰還というタイムラインで進行中であり、成功すれば太陽系科学に革命的な洞察をもたらす可能性があります。これらの探査計画が成功すれば、2030年代初頭は火星科学の大きな転換点となるかもしれません。

ご参加いただいたみなさん、仓本さん、ありがとうございました!
仓本さんの所属研究室は
北海道大学 大学院理学院 宇宙理学専攻