向井真弓(2021年度 選科/社会人)
モジュール4の最初の讲义は、武藤香织先生(東京大学医科学研究所附属ヒトゲノム解析センター教授)による「新兴?再兴感染症対策における伦理とリスクコミュニケーション」でした。
武藤先生は、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議のアドバイザリーボードのメンバーとして科学と政治の界面で新型コロナウイルス対策に現在携わっています。今回の讲义では、約一年半にわたるコロナ対策の経験に基づいて、主に二つの観点から、新興?再興感染症対策について話してもらいました。一つめの観点は、リスクコミュニケーションという観点、もう一つは、新型コロナウイルス感染症(颁翱痴滨顿-19)の伦理的法的社会的课题(贰尝厂滨)に関する研究という観点です。
リスクコミュニケーション
武藤先生は颁翱痴滨顿-19リスクコミュニケーションの课题として以下の10个を挙げていました。
① 対策にあたる人々のなかで、リスクコミュニケーションへの理解?信頼が不十分
② 縦割り行政が根強く、政府内に広報と広聴の戦略部署がない
③ 政治の都合により、不用意なメッセージが発せられる
④ 国と地域の首長が発信内容を連携できない
⑤ 大規模な広報には予算と時間がかかり、その間に状況が目まぐるしく変化する
⑥ ソーシャルメディアの課題:フィルターバブル(知りたい情報以外入ってこない)
⑦ 市民が使用するチャネルが多様、あらゆる媒体を活用する負担の重さ
⑧ 報道機関の課題:見出しの切り取り、早撃ちによる誤報
⑨ 迅速なファクトチェックに基づく強力なデマ対策の必要性
⑩ 人々が無関心だった医療?公衆衛生の仕組みがワイドショーのおもちゃに、ストレス解消の矛先に
これらのさまざまな问题に武藤先生は実践で向き合ってきました。以下では、特に「①対策にあたる人々のなかで、リスクコミュニケーションへの理解?信頼が不十分」という课题について绍介します。
コロナ対策にあたる政治家や役人のなかには、リスコミとは気の利いた言叶を放って自分たちの言うことを世の中の人に闻いてもらう活动だと误解している方がいたそうです。この误解を解き、リスコミとは、「リスクのより适切なマネジメントのために、社会の各层が対话?共考?协働を通じて、多様な情报及び见方の共有を図る活动」だと理解してもらうのに苦労したと武藤先生は言います。

このような対话的なリスクマネジメントには社会の各层とのあいだの信頼関係が重要です。そして、その信頼を筑くためには、情报の速やかな公表、透明性、市民を理解すること、计画策定といった事柄が重要になってきます。中でも、リスクの评価と管理、体制整备をどのように行なうのかについてはパンデミックの状况下で顕在化した论点があったそうです。
リスク评価は、専门家が政府から独立した形で実施し、リスク管理については、リスク评価の结果をもとに政府が政策を决めて実行するというのが原则的な役割分担です。しかしながら、専门家会议がリスコミも含め全てを行っているように见えていたことは问题だったと武藤先生は言います。一方、パンデミックの状况下では、リスク评価と政策の関係は分かちがたく、公众卫生学が政策の中に入り込んだ学问体系であることもあり、そのなかでリスク评価をいかに信頼してもらえる形で出すかは今后の课题といえます。また根干的な日本のインフラの问题として、感染者のプライバシーを守りながら感染状况をしっかりと分析してリスク评価に使うことができていない点も挙げられていました。
他方で、リスコミの体制整备としては、东京滨颁顿颁(东京感染症対策センター)にリスコミチームができたことは确かに一歩前进です。しかし、リスコミの戦略がなかなか政策に结びつかない现状を考えると、知事の真横に戦略部署を置くなど、政府も含めリスコミを行政の机构のなかにしっかり位置づけることが重要だと武藤先生は言います。信頼を维持するために重要とされる透明性については、政府は决まった政策の公表については迅速でしたが、政府も都道府県も决定のプロセスの説明が十分でなかったと武藤先生は言います。新型コロナウイルス感染症の报告と公表については「一类感染症」の基準に基づいて行うように通知が出ていましたが、「职业」「居住している市区町村」といった公表されるべきではない情报の多くを自治体が公表していました。差别的な言动を受けた方々からのヒアリングや调査から地方自治体による详しすぎる情报の公表やそれを受けた报道の在り方が偏见?差别に大きく影响していたことが分かったそうです。

新型コロナウイルス感染症(颁翱痴滨顿-19)の伦理的法的社会的课题(贰尝厂滨)に関する研究
武藤先生は、厚生労働科学研究费で新型コロナウイルス感染症の贰尝厂滨に関する研究を现在进めています。厚労省の施策に助言もできる研究班で、地域包括ケア研究班、リスクコミュニケーション班、生命?公众卫生伦理班、偏见?差别班など7つのグループに分かれて活动しているそうです。
武藤先生は、コロナ対策によって影响を受けるさまざまな立场の方々から意见を闻いたうえで、それらの意见を公众卫生施策に反映させる必要性を感じ、研究班で颁翱痴滨顿-19に関する意识调査を実施しました。调査テーマのひとつである「感染防止策の実践状况」の结果から、自分がコロナに感染した时の备えができている人が少ないことが分かったそうです。「自分が患者になる」という当事者性の想像が足りていないことが原因ではないかと武藤先生は分析しています。
そこで、患者や家族などから体験谈を収集し、体系的にデータベース化する「新型コロナウイルス感染症の语りデータベース」のパイロット版を作成することにしたそうです。この体験谈のなかには、幼いこどもを持つ亲が感染した场合の困难や看取り?见送りの困难、患者の家族として周囲から受けた偏见や差别など、自分や身近な人がコロナに感染したら、どういうことが起こるのか、これまでメディアであまり报道されてこなかった话も含まれており、今后の対策につながる事が望まれています。

武藤先生は、适时适切に国の议论に贰尝厂滨の観点から助言し、政府に闻いてもらう方策の仕组みを考えていきたいと思うと强く语られました。
おわりに
「コロナ対策をするなかで、日本で伦理的に大切とされた理念は何だったのでしょうね?」最前线でコロナ対策に携わってこられた武藤先生の言叶だけに胸に突き刺さりました。トリアージなどの明确な指针がないなかで、现场の医疗従事者の最终决定に委ねられてきたことに衝撃を受けるとともに、人间の尊厳を问われる问题だからこそ、私たちは対话を积み重ね、真挚に向き合っていかなくてはならないと思いました。武藤先生、ありがとうございました。