
著者:クリストファー?T?スコット 著
出版社:20060800
刊行年月:2006年8月
定価:2520円
生物のからだを作っている様々な细胞も,おおもとは一つの细胞,受精卵である。その受精卵が细胞分裂を始めてまもない时期に,受精卵の内侧にある细胞块と呼ばれる部分を取り出し,特殊な条件のもとで培养することで,胚性干细胞(贰厂细胞)と呼ばれる细胞集団を作り出すことができる。これは,理论上,あらゆる组织に分化する能力を持った细胞であり,「万能细胞」と呼ばれることもある。
そのES細胞がいま,いろいろな意味で社会的な注目を集めている。たとえば,糖尿病や骨髄性白血病,パーキンソン病,ALS(筋萎縮性側索硬化症)などを治療するための,ヒトの移植再生医療に応用できるのではないかと期待されている。あるいは,患者の皮膚細胞から採取した核を,核を取り除いた未受精卵に移植してヒトクローン胚を作成したというニュースがある。そうかと思えば,その研究は捏造だったというニュースもある。ES细胞の研究はいま,混沌たる状況におかれているのだ。
こうしたES细胞の研究について,その全体像をバランスよく,しかも正確に俯瞰した一般読者向けの书籍を見つけ出すことは非常に難しかった。その点で,本書は貴重である。ジャーナリストとしての経験も豊富な科学者クリストファー?スコットが,「細胞とは何か」という自然科学上の基本的なところから,韓国における论文捏造スキャンダルのような社会的問題にいたるまでの,ES細胞を含む幹細胞研究のさまざまな側面を,懇切丁寧に書き下ろした意欲作である。
この本の原題は”Stem Cell Now”,直訳すれば「幹细胞の今」となる。書名が示すように,著者は,受精卵を使って得られる胚性幹細胞についての研究だけでなく,受精卵を使わない「体性幹細胞」についての研究も紹介している。この点も,本書の大きな特徴である。
今まで,胚性干细胞に比べて体性干细胞はあまり注目されなかった。体性干细胞は,胚性干细胞ほどには柔软に,さまざまな组织に分化しないという,生物学者の一致した「定説」があったからである。しかし最近の研究では体性干细胞から贰厂细胞に类似した性质をもつ细胞をつくり出すことに成功している。そして体性干细胞では,成人女性から卵子を调达するという,胚性干细胞についてまわる生命伦理上の问题を避けることもできる。
本书は干细胞についての研究をバランスよく俯瞰した本である。とはいえ,読者にとって,着者の立ち位置は気になるものだ。着者のスコットは,干细胞研究については积极的に推进の立场であることを,第一章「世界に衝撃を与えた実験」の章末で表明している。その一方で,第八章「伦理论争」や第九章「政策とその影响」などでは,反対あるいは慎重な立场の议论を绍介するためにも充分なページを割いている。そうすることで,一方向からの见方に偏らないような配虑を心がけている。
アメリカのブッシュ大统领は,カトリック系の宗教団体を支持基盘にもつこともあって,干细胞研究にブレーキをかけている。このように,干细胞研究は政治とも无関係ではない。スコットはこうした点にも言及している。また,韩国における「初のヒト贰厂细胞株树立」という论文捏造スキャンダルなど,比较的最近の话题もとりあげている。
胚性干细胞をはじめとする,さまざまな干细胞研究の动向を知るうえで,本书は一般読者の大きな助けになることだろう。干细胞研究をめぐる问题については,科学者に议论を委ねるのではなく,広く市民も率直に意见を表明することが求められている。「良识ある市民の考え」を,例えばこの本をたたき台にして积み上げていきたい。
立花浩司(2006年度颁辞厂罢贰笔选科生,千叶県)