大利彻さん(工学研究院 教授)は、工学部のイメージと大きく違う、どちらかといえば農学部や薬学部のような研究を行っています。微生物を使って薬を作るという研究です。
工学部なのに、薬の研究をしていらっしゃるのですか?
薬というとやはり薬学部や医学部が强いのですが、彼らを支援する形で、创薬に直结する応用的な研究と、その基础になる研究の両方をしています。いずれも微生物が関係します。
まず、応用的な研究から话しましょう。いま使われている薬の6~7割は、微生物が作り出す复雑な化合物をもとにして作られています。でも、微生物が作る量はとても少ないので、薬の製造に必要な量を満たすのがたいへんです。
そこで工学部の出番です。土壌の中からとってきた微生物に、代谢工学という手法を适用し、薬の原料を、大量に、しかも安く作ることができるようにします。微生物が使っている酵素触媒や、その设计図となる顿狈础を详しく解析し、それらを改変したり组み合わせたりするのです。
(ノートには、复雑な反応がびっしりと书き込んであります)
生き物の体の中では、様々な化学反応が起きています。そうした化学反応では酵素(タンパク质)が触媒の働きをしており、それを「酵素触媒」と言います。ところがこの酵素触媒は、热に弱い。
でも海底火山などには、温度が100度近いところで生きている微生物がいます。そうした微生物がもっている酵素触媒は热に强く、煮ようが焼こうが、その働き(活性)を失いません。これを利用することができれば好都合です。しかも、その微生物そのものを培养して増やす必要はありません。顿狈础のかけらから、その酵素触媒を人工的に増やすことができるのです。
今までは、人间が人工的に増やすことのできる微生物がもっぱら研究されてきました。大肠菌や、纳豆菌、パン酵母、麹菌などです。そのほかは、结核菌やコレラ菌など病原菌でしょうか。でもそのほかに、まだ知られていない膨大な微生物がいるのです。土壌1グラムの中には、1亿ほどの微生物がいるとも言われています。これら宝の山を利用しない手はありません。
たとえば、こんな例があります。土壌中に、薬の原料になりそうな化学物质がありました。それを础としましょう。调べてみると、础は微生物が関与する一连のプロセスを経て作り出されているのですが、础より前に作られている物质叠のほうが、础よりもっと有用であることがわかりました。そこで私は、叠ができたところで反応を止める方法を见つけました。こうすることで、化学合成で生产するよりはるかに効率的に、化学物质叠を生产できるようになりました。
(学生さんたちに実験室を案内してもらいました。いろいろな微生物が冷冻库などに保存されています(左と中央の写真)。インドネシアからの留学生も実験中でした(右))
基础的な研究のほうは?
今から30年前、僕が学生のころ、博士课程の大学院生が3年间かけて1000个の塩基配列を调べると、それで博士の学位がもらえる、という时代でした。それほど大変な作业だったのです。それが5年ほど前、画期的な技术が开発されて、400万の塩基配列を调べることも、原理的には2日か3日でできるようになりました。费用も、5年ほど前までは1000万円ほどかかっていたのが、1年ごとにほぼ半额となり、今では30万円ほどでできます。
こうして、僕らでも容易にゲノムを决めることができるようになりました。すると何ができるか。乳酸菌など有用な微生物の设计図(顿狈础の塩基配列)と、病原菌の设计図とを比较することができます。バイオ?インフォマティックス(生物情报工学)という分野が进歩したこともあって、普通のパソコンを使って、塩基配列のわずかな违いを、高速に调べることができるのです。
その比较をもとに、病原菌にしかない、そして病原菌が生きていくのに无くてはならない代谢経路を、止めてしまうような化学物质を探します。僕は今、ピロリ菌について调べているのですが、この方法でピロリ菌の特効薬を见つけることができるはずです。
このような、病原菌にしかない経路を见つけるという研究は、人とお金をつぎ込んでも见つかるとは限らないので、リスキーな研究です。でも、重要な基础研究です。
(実験室の様子)
どうして微生物に着目したのですか?
研究できる微生物が无限にいるからです。たとえば大肠菌でも、约4000ある遗伝子のうち、2000ほどしか机能がわかっていない。残りの半分は机能がわかっていないんです。しかも土壌には、1gあたり约1亿の微生物がいます。研究の余地が、まだまだあります。
もう一つ、简単な理由があります。僕、血がだめなんですよ。血を出す生物はだめなので微生物にしました。それに、有机化学と生化学の両方が好きなんですが、微生物はいろんな化合物を作ってくれるから、両方の希望を満たせるかなと思いました。
名古屋大学の农学部と大学院修士课程で学んだ后、会社に勤めてから、大学に戻りました。基础研究をやりたかったからです。研究费は公司のほうが润沢だけど、うまく研究が回れば、微生物が相手なので大学でも何とかなります。会社は、応用研究に関するノルマが厳しいんです。给料を考えたら公司のほうがいいけど、大学では好きなことができるので、それでいいかなと思っています。
生合成の分野は、北大が强いと思いますね。いくつもの学部に优れた研究者がいらっしゃいますので、共同研究したり、外国から研究者を招いたりと、いろんなことがやりやすいです。
(取材した杉山利行さん(右)と、同行した田仲真実さん(左)。大利彻さんが手にするのは、2004年「住木?梅澤記念賞」の表彰楯。この賞は、抗生物質など生物活性物質に関連する優れた研究業績に与えられます。)
この记事は、全学教育科目「北海道大学の今を知る」を受讲した、杉山利行さん(総合理系1年生)の作品です。





