ブラジルの洞窟に住む小さな昆虫、トリカヘチャタテの交尾器がオスとメスで逆転していることを発見し、2017年のイグノーベル生物学赏を受赏した吉澤和徳さん(農学研究院 准教授)。「人々を笑わせ、そして考えさせた」業績に対して与えられるイグノーベル赏ですが、今回の受赏の背景には、長い歴史を持つ北大昆虫学と吉澤さんをつなぐ、一つの物語がありました。受赏研究のこと、研究への想い、吉澤さんにお聞きしました。

チャタテムシとの出会い
今回の受赏の立役者でもあるチャタテムシ。「全ての昆虫が広く研究の対象なんです」と語る吉澤さんですが、その研究の中心になるのは、大きさ1cmに満たないこの小さな昆虫です。チャタテムシと吉澤さんとの出会いは、一体どのようなものだったのでしょうか?
「子どもの顷から甲虫、特にコガネムシが好きでした。大学でも甲虫を学びたいと思い、その専门家がいる九州大学へ。入学后すぐにお目当ての先生のところへ挨拶に行ったのですが、开口一番『君はチャタテムシか、ハジラミをやりなさい』と言われたんです。当时、甲虫を研究している学生が多かったため、空きがあるところ、ということで勧められたのでしょうけど、ショックでしたね……(笑)。でも现在は、结局チャタテムシだけでなく、ハジラミも研究してしまっているという。早いうちから、チャタテムシに取り组めたのはラッキーでした。」

メスのペニス、オスのヴァギナ
今回の受赏理由は「洞窟棲昆虫におけるメスの陰茎(ペニス)とオスの膣(ヴァギナ)の発見」ということでしたが()、はじめに発见された时はいかがでしたか?
「最初にこのメスペニスを見たのは、共同研究者のCharles Lienhard(今回の共同受赏者でもある)が論文を送ってきた時でした。自分が今オスを見ているのかメスを見ているのかわからなくなるような、不思議な感覚におそわれました。」

そもそも何故このような逆転现象が起きたのでしょうか?
「メスは交尾器をオスに挿入し、交尾器の周りのトゲでオスを逃さないように固定します。长さとして30时间から70时间ほど交尾を行うことになるのですが、その中でメスはオスから精子だけでなく、栄养が入ったカプセルも受け取ります。この栄养を巡ってメスがオスよりも交尾に积极的になり、その结果、このような交尾器の进化につながったと考えています。
オスがメスに栄养を渡し、メスがオスを积极的に争うという交尾行动は、ハエやコオロギなど他の昆虫でも见ることができるのですが、メスがオスに交尾器を挿入するという段阶まで形态が変化しているのは、トリカヘチャタテだけです。そこに至ることを可能にする特徴を、トリカヘチャタテはもともと持っていたのかもしれない。その要因の解明をこれから行なっていきたいです。」

トリカヘチャタテという名前もとてもユニークですよね。姉弟が性别を入れ替えて宫中で暮らす様子を描いた平安时代の古典「とりかへばや物语」から、その名前をつけられたとお闻きしました。
「ええ、ずいぶん考えました(笑)。性に関わることだけに、直接的すぎず、且つ语吕が良い名前を、と探している时に『とりかへばや物语』の存在に気がつきました。名前というものはやはり重要で、今回の论文のタイトルも『(洞窟棲昆虫の「雌の陰茎」と「雄の膣」の相関した進化)』と、ダイレクトな表現にしたことが受赏につながったのかもしれません。」
研究という歴史を积み重ねていく
吉泽さんの研究とも深いつながりがある标本库を案内してもらいました。防虫剤の香りに包まれたその部屋には、札幌农学校时代から积み重ねられてきた研究の成果、多くの标本があります。1902年に松村松年によって开かれた昆虫学教室。実は、その顷からチャタテムシの研究が行われていました。吉泽さんの所属する昆虫体系学研究室も、その系谱に连なっています。
「日本で初めてチャタテムシの研究をした冈本半次郎が、100年以上前に研究していた标本がこちらです。九州大学にいた修士时代、僕は北大までこれらの标本を借りに来ていました。」

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吉澤さんが出してくれた標本箱をよくよく見てみると、「K. Yoshizawa」の文字がありました。
「これは僕が1995年(修士1年の时)にラベリングしたものですね。その后、2000年に北大に着任しました。大学院时代には、はるばる九州から借りに来ていたのに、今では研究室を出て30秒で手が届く。とても赘沢ですよね。」

「イグノーベル赏のキャッチフレーズに『誰も真似できない、そして真似すべきではない』というものがあります。その点から言えば、僕らの研究はイグノーベル赏っぽくないと思うんです。それは結果としての発見が面白かっただけであって、何か特別な研究の手法をしているわけでもない。この分野の誰もがやっているように、未知のものを掘り起こして記載していくという、ごく普通のものです。そういう意味では、分類学、形態学が赏をもらったと思っています」
性の概念を揺るがすほどの大胆な発见とは対照的に、吉泽さんはとても谦虚でした。そして、そこには础を筑いて来た巨人たちへの敬爱がありました。冈本半次郎の研究から、吉泽さんの学生时代、そして现在……こうやって研究という歴史が纺がれていくのですね。

最後に一つ質問を。正直なところ、今回のイグノーベル受赏は嬉しかったですか?
「もちろん、嬉しかったです。実は、ずっとイグノーベル赏をウォッチしてきた一人ですので。調査があって授赏式には出られなかったので、出先の民宿で中継を見ながら、自分の名前が読み上げられるまでは『騙されてるんじゃないだろうか……』ってドキドキしてましたけど(笑)。」
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関连记事:
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松村松年が开いた昆虫学に関してはこちら
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